進めば進むほど鮮やかな色の花を咲かせている。
「最初見たときは綺麗だったけど……な。」
 こう何と言うか……目が痛い。
「何匹居るのかしら?」
 何度狐や亡霊に囲まれただろうか?
「大丈夫か、レオン?」
「大丈夫ですよ。まだまだいけます。」
 グッと拳を突き出す。
「頼もしいな。じゃ、さっさと進むか!」
 狐を斬り飛ばし俺の後ろからロナが槍を突き出す。
他の狐を巻き込んで飛んでいく狐。
キカはレオンの周りに近づこうとする討伐隊の面々と闘っている。
ラビットは亡霊を斬り伏せる。
「いきますよ!」
 レオンの声と共に大気が震える。俺達まで飛ばされそうな衝撃波。
衝撃が駆け抜けた辺りにはさっきまで居た狐やらはいない。
「ふぅ……もう少し時間がかからないといいんですけどね。」
 ぺろっと下を出すレオン。
「いやいや……俺達まで一掃されるかと思ったよ。」
「ですね。」
 雰囲気が柔らぐ。  操られていた討伐隊や盗賊は意識を取り戻すと森から出るように促している。
「討伐隊は結構見つかったんじゃない、後どれ位いるのかしら?」
「多分、あと十人くらいでしょうか?」
「十人か……もう少しだな。」
 まだガーク卿は見つかっていない。 となればその十人の中にいるのだろう。

「いや〜何でもアリだな。」
 森を進む。途中討伐隊の面々を助け更に奥へと進んだ。
目の前には時代を感じさせる門。真紅の立派な柱に純白の壁が眩しい。
場違いな巨大な門。しかし違和感を感じさせない。
森とは思えない建造物。赤い花弁が舞い散る情景は魅入ってしまう。
その奥は階段になっていてそのさらに奥から感じる冷たい視線。
「ふぅ、面倒な事になったな。」
「奥にいるのがカケラ?」
 ラビットの声に頷くレオン。
門の前には巨大な斧を携えた男が一人。どうやらすんなりと通してくれそうに無い。
「ガーク卿……?」
 目は赤く光り街で見たあの強面だが優しそうな雰囲気は無い。
近づくと卿は斧を構える。
「卿?」
 声を掛ける。が、やっぱり返事は斧の一撃だった。
横に飛び卿を囲む様な格好になった。が、卿は慌てる事も無く俺達をゆっくりと見渡す。
その目は狂気に染まっている。
「……卿?」
 呼びかけても卿はその目を向けるだけ。
ゆっくりと斧を構えて、突進してくる。
巻き起こる戦風。砂塵を舞い上げ火花が飛び散る。
一撃は重く、速い。
「ユイン様!」
「王子!」
 キカが卿の後ろから迫る。卿は反転しキカを防ぎそのまま周囲を薙ぎ払う。
キカと共に迫っていたロナもその一撃に弾き飛ばされる。
その一瞬の隙。俺は間合いを詰め卿に迫る。
この鍔迫り合いに負けるわけにはっ!
渾身の力を込めるが、徐々に押されていく。
「離れて!」
 頭上からの声。俺は後ろに下がり卿はバランスを崩す。
真上からの一閃。
その一撃を卿は避け斧を振り回す。小柄なラビットは受け止める事はせずその軌道を見切っている。
「はぁっ!」
 レオンの掛け声と共に卿の動きが止まる。いや、卿の体が凍る。
「今の内にカケラを。」
 頷いて門を越えようとするが、後ろからの殺気に足を止められる。
「うそ……?」
 レオンの顔が驚きに染まる。
手加減はしただろうが凍りついた卿が何事も無かったかのように攻撃してきたからだ。
「その者じゃ、その者を始末せよ。」
 冷静な声が聞こえる。その者……レオンか!
卿はレオンに狙いを定めている。
「そうじゃ、それでよい。」
 楽しげな声。レオンの前に立ち卿の攻勢を防ぐ。
「ふむ、これならどうじゃ?」
 甘い香りが風に乗ってくる。
「あら、まいったわね。」
 緊張感の無いラビットの声。
「どうした?」
「狐さん多数登場。」
 この奥に元凶がいるのは間違いないな。
しかしそこに辿り着くのはなかなか骨が折れる。
「狐は任せた。」
「そっちはお願い。こっちは私一人で充分よ。」
 心強い言葉。
「ユイン様、早く終わらせましょう。」
 そう言うキカは後を気にしている。
「だな。卿、ちょっと痛い思いしてもらうけど悪く思うなよ。」
 三人一斉に飛び掛る。
ロナの槍が斧を持つ腕に突き刺さる。痛みに怯む様子は無いがその動きは一瞬止まる。
その隙をキカの肘撃ちが卿の脇腹に撃ちこまれる、体をくの字に曲げた瞬間を俺がその顎を打ち上げる。
そのまま仰向けに倒れる卿。
「後は奥にいる奴だな。」
 俺たちは狐と闘っているラビットの援護に向かう。

 狐は倒れても倒しても次々と表れてくる。
奥でにやにや笑っているのが分かる。
討伐隊や盗賊を操りこの森で悪さをしている元凶。
 そして狐の数が減ったと感じた。
だから奥を見る余裕が出来た。
それが罠だと分かったのは、
「まったく……寝てなさいよ。」
 ラビットの冷静な声と顔を抑えている卿だった。
「詰めが甘いわよ。ねぇ?」
 ラビットが笑いかけるのはレオンの前にいる子狼。
「助かったよ、ありがとうね。」
 頭を撫でるレオン。子狼はレオンに擦り寄っている。
が、奥に感じる空気に牙を剥く。
 奥の視線は余裕を漂わせ俺達を見ている。
「危ないからここで待っててね。」
 子狼にそう言って奥へと進む。

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